次の表は、令和2年に離婚調停を申し立てた男性の離婚理由のうち主な3つを集計した結果です。
参考:家事令和2年度 婚姻関係事件数 申立ての動機別申立人別 全家庭裁判所|裁判所
離婚理由の第4位に「異性関係」があります。
これは、妻の浮気や不倫を理由に離婚調停を申し立てたということです。
この記事では、妻の浮気や不倫が発覚した場合の離婚や慰謝料請求についてご説明します。
妻の浮気や不倫を疑ったときの対応方法とは
配偶者のある者が、配偶者以外の者と自由な意思で肉体関係を結ぶことを法律上「不貞行為」といいます(最判S48.11.15判決)。
夫婦には、互いに貞操を守る義務があり、婚姻中に配偶者以外と性交渉を持つことは認められていません。
ここでは、妻の浮気や不倫を疑ったときに行うべきこと、そうでないことをご説明します。
不貞の証拠を集める
妻の不貞が発覚して、離婚したい、不貞慰謝料を請求したい、と思っても、妻の不貞が立証されなければどちらも認められません。
決定的な証拠がなければ、妻に言い逃れられ、うやむやにされてしまうことがあります。
また、証拠がないまま妻に不貞の事実を確認したり、離婚を切り出したりすると、実際に妻が不貞をしていた場合、証拠を隠されてしまう可能性もあります。
そうならないためにも、話し合いをする前に証拠を集めることが重要です。
しかし、どのような証拠でもいいということではありません。
妻と不貞相手との間で、性行為または性交類似行為があった、もしくはあったと推認できる証拠が必要です。
具体的には次のものが挙げられます。
- 妻が不貞相手とふたりでホテルに出入りしている写真や動画
- 妻が不貞相手の自宅に宿泊する様子を撮影した写真や動画
- 妻が不貞相手との不貞行為を記録した写真や動画
- 性行為があったと推認される妻と不貞相手とのメールやLINEなどのメッセージのやりとり など
浮気や不倫しているのは確実なのに、なかなか証拠がつかめない場合は、探偵や興信所などプロの調査会社を使って決定的な瞬間を収めてもらうのもよいでしょう。
感情的になって問い詰める行為は絶対してはダメ!
妻の浮気や不倫が発覚して、感情的になってしまう気持ちはわかります。
しかし、一旦落ち着きましょう。
感情的になったまま妻を問い詰める行為は、暴言や暴力に繋がりかねません。
過度な暴言や暴力は、モラハラやDVとして逆に妻から慰謝料を請求される可能性があります。さらに、暴行罪や傷害罪で警察に逮捕されてしまうこともあります。
また、妻の不貞相手に対しても同様です。
不貞相手を呼び出して、感情的になったまま暴行を加えたり、「家族や会社にばらす」などと脅したりすることはもちろん、不貞相手の自宅や勤務先に押し掛けたり、SNSなどで不貞の事実を拡散したりすることも行ってはいけません。
これらはすべて違法行為に該当します。
暴行罪、名誉棄損罪、威力業務妨害罪、信用毀損罪及び業務妨害罪などで刑事罰を受ける可能性があるほか、民事上の損害賠償を請求される可能性もあります。
盗聴器やGPSを使った証拠収集に注意を!
近年は、スマートフォンに浮気防止アプリをダウンロードすることで、録音機能で盗聴したり、GPSにより位置情報を特定したり、メッセージや動画像を監視したりすることが容易になりました。
しかし、妻に無断で行ったこのような行為は違法となるため注意が必要です。
違法に入手した証拠は、裁判上証拠として認められないことがあります。
民事訴訟では、証拠能力を制限する規定がありません。そのため、違法に収集された証拠であってもただちに証拠能力が否定されることはありません。
実際に共有財産である自宅や自家用車に盗聴器を設置して得た証拠は、民事訴訟上採用されています。
しかし、証拠収集方法が「著しく反社会的な手段」といえる場合は、証拠として認められません。
例えば、次のようなものが挙げられます。
- 不倫相手の自宅や勤め先に盗聴器を仕掛ける
- 脅迫や暴力により言質を取る など
民事訴訟上証拠と認められたとしても、無断で録音をした行為について妻から人格権を侵害されたとして慰謝料を請求される可能性があります。
証拠収集については慎重に行う必要があります。
妻の浮気や不倫の証拠を掴んだら
妻の浮気や不倫の証拠を掴んだら、
- 離婚する
- 結婚生活を継続する
のどちらかを選択することになります。
ここでは、離婚するかどうかをどのように検討すべきかご説明します。
離婚するかどうかを検討する
妻の不貞が発覚した場合、離婚をすべきかどうか悩まれると思います。
離婚をするかを検討するにあたって次の項目が判断基準になります。
- 妻を許せるか
- 妻が反省しているか
- お子さんへの影響
- 離婚後の生活の変化
- 経済的、社会的な影響 など
離婚することを決意しても、妻が離婚を拒んだり、ご両親やご兄弟が出てきて話合いがこじれたりすることもあります。
離婚するまでの過程や、離婚により生じる影響をよく想像して決断しましょう。
離婚に伴い発生する諸問題
離婚をすることで具体的に次のような問題が発生します。
- 婚姻費用
- 親権
- 養育費
- 面会交流
- 財産分与
- 年金分割
以下で、詳しくご説明します。
婚姻費用
離婚に向けて別居した場合に問題となるのが、婚姻費用です。
婚姻費用とは、夫婦や未成熟子の生活費など婚姻生活を維持するために必要な一切の費用のことです。
夫婦は負担能力に応じて婚姻費用を分担する義務を負っており、別居していても同様にこの義務が発生します。
そのため、夫の方が多く収入を得ていれば、別居の原因が妻にあったとしても、離婚が成立するまでの妻の生活費を夫が負担しなければなりません。
妻より収入が多い場合は、できるだけ別居期間を長期化させないことが重要です。
離婚協議が難航しそうな場合は、先に離婚だけ成立させるのも良いでしょう。
婚姻費用の金額は、裁判所が採用している算定表を参考にして決めましょう。
この算定表は、権利者(もらう側)・義務者(支払う側)の収入、子の人数・年齢に応じて、標準的な婚姻費用の金額を算出しています。
平成30年度司法研究(養育費、婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告について|裁判所
親権
一般的に親権の取得については母親が有利です。
妻が不貞していた場合、子の親権が大きな問題となり、離婚成立までに時間を要することも少なくありません。父親として、不貞をしていた妻に親権は渡せないという感情を抱くのも当然です。
しかし、妻が不貞をしていたとしても育児をしっかりしていた場合は、やはり母親が有利となります。妻の不貞は夫婦の問題であり、親権者の適確性はまた別問題と解されているからです。
親権を争う場合、裁判所はこれまで誰が主に子を養育・監護してきたかという点を重視します。
実際、父親は仕事で家を空けている時間が多く、母親の方が子どもの世話をしている時間が多い場合がほとんどです。
しかし、次のように父親が親権を取れるケースもあります。
- 離婚に向けて別居する場合に父親が子どもと暮らし、面倒をみている場合
- 親権者が決定する前に母親が子どもを連れ去った場合
- 子ども(15歳以上)が父親と暮らしたいという意思がある場合
- 母親の子育てに問題(虐待、置き去りなど)がある場合
父親が親権を取るためにやるべきことは次のとおりです。
- 養育実績を作る
- 子どもと関わる時間を増やす
- 仕事を調整する
- 離婚後の子育てのプラン設計をする など
父親が親権を取る場合、これまでの仕事中心の生活から子ども中心の生活にシフトできるかを十分に検討することが必要です。
いずれにしても父親・母親のどちらと生活することが子どもにとって最も良いのかを優先して考えるべきでしょう。
養育費
養育費とは、子どもが経済的、社会的に自立するまでに要する費用のことで、子どもと離れて暮らす親が支払うものです。
具体的には、
- 衣食住に必要な経費
- 教育費
- 医療費 など
が挙げられます。
妻の不貞が原因で離婚し、親権を取得できなかった場合、養育費だけを支払うなんて納得がいかないと思う方もいるかもしれません。
しかし、子どもの親であることに変わりはないため、親として、養育費を支払っていく必要があります。
養育費の金額は、裁判所が採用している算定表を参考にして決めましょう。
婚姻費用と同様に権利者(もらう側)・義務者(支払う側)の収入、子の人数・年齢に応じて、標準的な養育費を算出しています。
平成30年度司法研究(養育費、婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告について|裁判所
面会交流
面会交流とは、子どもと離れて暮らす親が、子どもと定期的・継続的に会って話をしたり、一緒に遊んだり、電話や手紙などの方法で交流することです。
離れて暮らす親子にはお互いに交流する権利があります。
しかし、面会交流は、子どもの健全な成長を助けるようなものでなければなりません。
子どもの年齢、性別、性格、就学の有無、生活のリズム、生活環境などを考えて、子どもに精神的な負担をかけることのないよう十分配慮する必要があります。
子どもと暮らす親は、原則として、面会交流を拒否できません。
しかし、次のような場合は、子どもの利益や福祉を害する恐れがあるとして、拒否できます。
- 連れ去りや虐待の恐れがある場合
- 子ども自身が面会交流を拒否している場合
- 子ども暮らしている配偶者へDVを行っていた場合 など
別居中、父親が子どもを監護している場合、母親に大きな問題がある場合を除いて面会交流の実施に積極的である方が、親権を取りやすくなるようです。
親権や監護権が得られなかった場合は、面会交流を求め、子どもとの交流を継続的に行いましょう。
面会交流について取り決めをしても、子どもの成長とともに時間を確保することが難しくなったり、子どもと暮らす親に新しいパートナーができたりなどで、約束が守られないことも多くあります。
面会交流の約束が守られない場合は、家庭裁判所に調停の申立てを行い、協議することになります。
財産分与
財産分与とは、夫婦が婚姻中に協力して取得した財産を、離婚する際又は離婚後に分けることです。
財産の取得や維持に対する夫婦双方の貢献の度合いによって前後することはありますが、基本的に財産分与の割合は2分の1が一般的です。
妻が専業主婦であってもその割合は変わりません。
また、離婚の原因が妻の不貞であっても、その割合は左右されません。
ただし、妻の不貞を理由とした慰謝料を請求しない代わりに同額分を差し引いた分与を行うことがあります。
持ち家がある場合は、住宅ローンの残債によって売却か夫婦のどちらかが住み続けるかを検討します。
財産分与についての詳細はこちらの記事も確認してみてください。
年金分割
年金分割とは、夫婦が離婚した場合に、婚姻期間中のふたりの保険料納付額に対応する厚生年金を分割して、それぞれ自分の年金とすることができる制度です(自営業の方は対象外となります)。
分割の方法は次の2種類があります。
- 合意分割制度
- 3号分割制度
以下で説明します。
合意分割制度とは、次の条件を満たしている夫婦の合意や裁判手続きにより定めた割合で年金分割を行う制度です。
(条件)
- 婚姻期間中の厚生年金記録(標準報酬月額・標準賞与額)があること
- 平成19年4月1日以後に離婚している、または事実婚関係を解消している
- 請求期限(離婚した日の翌日から2年)を経過していない
例えば、夫婦がそれぞれ会社員であり、婚姻期間中の夫の標準報酬月額が50万円、妻が30万円だった場合、分割する割合を2分の1で合意したとすると夫から妻へ10万円を分けるということになります。
この合意分割制度は、分割するかどうかや分割の割合について、双方の合意が必要となります。そのため、分割しないと決めてもよいのです。
年金分割をするか否かで相手方と意見が分かれた場合は、裁判所に年金分割の割合を定める審判や調停を申し立てることになります。
一方、3号分割制度とは、厚生年金被保険者の被扶養配偶者である国民年金第3号被保険者が、次の条件を満たすことで相手方の合意なく年金分割の請求ができる制度です。3号分割制度による分割割合は、一律2分の1となります。
(条件)
- 平成20年5月1日以後に離婚している、または事実婚関係を解消している
- 平成20年4月1日以後におふたりの一方に国民年金の第3号被保険者期間がある
- 請求期限(離婚した日の翌日から2年)を経過していない
この3号分割制度は、例えば夫が会社員、妻が専業主婦の場合に、妻が請求すれば、婚姻期間中にかかる厚生年金の2分の1が、合意なく妻の年金となるということです。
妻の不貞が原因で離婚する場合、共働きでも夫の収入の方が多かったり、妻が専業主婦であったりすると、年金分割で厚生年金が2分の1となってしまうのは、どうにも腑に落ちないですね…。
不貞慰謝料を請求する
妻の浮気や不倫の証拠を掴んだら、妻やその不貞相手に不貞慰謝料を請求するかどうかを検討します。
不貞慰謝料の相場
不貞慰謝料には、明確な基準がありません。そのため、個別の事情や状況を考慮して金額を算出します。
弁護士が交渉に介入した場合は、過去の判例などを参考にして金額を提示します。
裁判上の不貞慰謝料の相場は次のとおりです。
不貞慰謝料の増額要素
慰謝料の増額の要素には、次のような事情が挙げられます。
- 不貞行為が原因で離婚や別居に至った
- 婚姻関係が長い
- 夫婦間に未成熟の子がいる
- 不貞行為の期間が長い(おおよそ1年以上、婚姻期間との比較も考慮される)
- 不貞行為の頻度が多い(おおよそ十数回以上、不貞期間に対する頻度も考慮される)
- 不貞関係発覚後も不貞関係が継続している
- 不貞関係を解消するよう要請されたにもかかわらず継続している
- 不貞関係の解消を約束したにもかかわらず継続している
- 不貞行為により慰謝料請求側が被る精神的苦痛が重大(心身の不調、不貞相手の妊娠の有無など)
- 不貞相手が配偶者から経済的利益を受けていた
- 不貞相手の行動が悪質(当初不貞行為があったにもかかわらず虚偽の主張をしていた、離婚するよう積極的に促していたなど) など
不貞慰謝料の請求先
不貞慰謝料の請求先は次の3パターンです。
- 妻のみ
- 妻の不貞相手のみ
- 妻と妻の不貞相手
それぞれどういった場合に請求すべきかご説明します。
妻のみ
一般的には、配偶者の不貞行為により離婚することになった場合に、離婚にかかる慰謝料として請求します。
妻が不貞を認めているが、不貞相手の特定ができない場合なども妻のみに請求することになります。
妻の不貞相手のみ
離婚はしない場合に、妻には請求せず、不貞相手にのみ請求するケースがみられます。
また、離婚はするが、親権は父親が取得し、妻には養育費などを確実に支払ってもらうため慰謝料を請求せず、不貞相手にのみ請求することも考えられます。
妻と妻の不貞相手
妻と離婚する場合で、不貞相手が特定できている場合は、双方に慰謝料を請求してよいでしょう。
ただし、双方から二重に受け取ることはできません。
例えば妻らの不貞行為による慰謝料相当額が100万円とする場合は、100万円の範囲で妻から50万円、不貞相手から50万円といったように慰謝料を受け取ることになります。
不貞慰謝料を請求したい場合は、こちらの記事も確認してみてください。
不貞慰謝料請求の流れ
不貞慰謝料請求の流れは次の図のとおりです。
さらに詳しく知りたい方はこちらの記事を確認してみてください。
まとめ
妻の浮気や不倫が発覚したら、妻やその浮気(不倫)相手に慰謝料を請求したい、離婚したいという感情を抱くのも当然です。
しかし、感情的になってしまうと、余計にこじれてしまったり、さらに刑事事件に発展してしまったりすることもあります。
弁護士に依頼するメリットは次の5つです。
- 相手方が慰謝料を支払いに応じない場合に適切な慰謝料額での解決が期待できる
- 示談交渉で相手方と直接会わずに解決できる
- 相手方にプレッシャーをかけることができる
- 早期解決が期待できる
- 解決後のトラブルを未然に防ぐことができる
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