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配偶者の浮気や不倫が発覚した場合、配偶者やその浮気(不倫)相手に慰謝料を請求したいという感情を抱くことでしょう。
配偶者のある者が、配偶者以外の者と自由な意思で肉体関係を結ぶことを法律上「不貞行為」といいます(最判S48.11.15判決)。
夫婦には、互いに貞操を守る義務があり、婚姻中に配偶者以外と性交渉を持つことは認められていません。
しかし、配偶者が不貞行為をしたからといって必ずしも慰謝料がもらえるわけではありません。
この記事では、次の登場人物を例に、主に以下の点を解説します。
- 不貞行為の慰謝料が認められる場合
- 不貞行為の慰謝料が認められない場合
- 慰謝料の相場 など
不貞慰謝料の請求が認められる場合
慰謝料を請求するには、不貞行為が、民法上の「不法行為」に該当するものでなければなりません(民法709条)。
配偶者に対する請求は、不貞行為の事実が証拠上明らかであれば可能ですが、不貞行為によって婚姻関係が破綻したとして不貞相手に慰謝料を請求する場合は、次の要件を満たす必要があります。
- 故意・過失が認められる場合
- 婚姻関係が破綻した場合
以下で詳しくご説明します。
不貞行為の事実
配偶者のいる者が、それ以外の者とデートやキス、それ以上の行為をすることを一般的に「浮気」や「不倫」と呼びますが、法律上「不貞行為」が認められるのは、どのような場合でしょうか。
不貞行為が認められる場合
不貞行為の典型例は挿入を伴う性行為です。
しかし、必ずしも挿入を伴う性行為が必要不可欠なわけではなく、性交類似行為についても不貞行為とみなされます。
たとえ酔っぱらった勢いで、1度だけであったとしても肉体関係があれば不貞行為があったと言えます。
不貞相手が、キャバクラやホステス、ホストで働く方であっても、肉体関係があれば不貞行為となります。
しかし、性的サービスを提供する風俗店での行為については、配偶者には不貞行為が認められるものの、性的サービスを提供した者については、裁判所の判断が分かれており、様々な事情を総合的に考慮して判断されています(慰謝料請求認容裁判例として、東京地裁H26.4.14判決、否定例として、東京地裁R3.1.18判決、東京地裁H26.4.11判決)。
大前提として、不貞行為の存在は、証拠により証明しなければなりません。
また、いつから・どのくらい・どのように不貞行為が続いていたかなどが立証できれば、慰謝料の金額を左右する事情となります。
不貞行為が認められない場合
単にふたりだけで食事へ行くなど、いわゆるデートのみの場合は不貞行為となりません。
また、強制性交(強姦)などは加害者に不貞行為が認められますが、被害者は自由な意思による性交渉ではないため不貞行為にはなりません。
性行為・肉体関係を伴わない男女の交際についての留意点
合意の上でおこなった「抱き合うこと」、「キスをすること」、「服の上から体を触ること」をもって不貞行為を認めた裁判例(東京地裁H28.9.16判決)もあれば、一方で、「抱き合うようにキスをした」行為、「手を繋ぎ路上で再びキスをした」行為が不貞行為として不法行為を構成しない(つまり不貞行為は認められない)とした裁判例(東京地裁H28.12.28判決)もあります。
訴訟になった場合、担当する裁判官によって不貞行為が認められるか否かが変わり得るということです。任意交渉においても相場とされる金額まで取れないことがあるため、留意が必要です。
不貞相手に故意過失が認められる場合
不貞相手に対し慰謝料を請求するには、不貞行為の事実に加えて故意過失があったと証明できなければ請求できません。
故意は、不貞相手が「交際相手を既婚者」と知って関係を継続している場合に認められます。
過失は、不貞相手が、交際相手が既婚者であったと知らなかったとしても、注意すれば知ることができたり知るべきであったと言える場合に認められます。
以下で具体的な例を挙げます。
- 愛之助が、不二子が既婚者であると知りながら不貞関係を継続していた=故意
- 不二夫と愛子は同僚の関係にあり、不二夫から直接的に既婚者であると伝えられなかったとしても、勤務先を同じくする者から不二夫に配偶者がいる事情を知り得る状況にあった等=過失
- 愛之助が不二子との交際時、不二子から婚姻の有無は聞かされていなかったが、不二子宅への立ち入りを拒否される、外出が極端に少ない、長期休暇を一緒に過ごせない、なかなか電話が通じないなど既婚を疑う事情があった等=過失
不貞行為により婚姻関係が破綻した場合
不貞相手に慰謝料を請求するには、不貞行為の事実、故意過失に加えて不貞行為により婚姻関係が破綻したことを証明しなければなりません。
「婚姻関係の破綻」とは、離婚したと等しい状態をいいます。
不貞行為が原因で婚姻関係が破綻したとされる例は次のとおりです。
- 夫婦間の性生活があったのに、不二子と愛之助が不貞関係となってから不二夫は不二子から拒否されるようになった
- 不二夫は、婚姻後仕事が終わったら直帰し、家事や育児に協力的であったのに、愛子と不貞関係となってからは外泊が多く、次第に生活費も入れなくなった など
不貞慰謝料の請求が認められない場合
配偶者の不貞行為が疑われる場合でも、不貞を行った証拠がなければ慰謝料を請求できません。また、次のような場合も慰謝料の請求ができません。
- 不貞相手に故意過失が認められない
- 婚姻関係が破綻していない
- 既に精神的な損害を補う十分な慰謝料を受け取っている
- 時効が経過している
以下で詳しくご説明します。
故意過失が認められない場合
不貞相手が、交際相手が既婚者であることを知らず、また既婚者であることを知りえなかったと認められる場合は慰謝料を請求できません。
具体的には次のような場合があります。
- 不二夫と愛子が出会い系サイトなどで知り合い、お互いの素性を全く知らず、愛子は、不二夫が既婚者であることに気づく余地がないまま肉体関係を結んだ=故意・過失なし
- 飲食店で接客の仕事をしていた不二子が愛之助と不倫をしていたが、同僚も不二子が既婚者であることを知らず、深夜3時まで店舗に残るなど家族がいるような素振りを見せなかったなどの事実から愛之助において不二夫の存在を知らず、知らなかったこともやむを得ない=故意・過失なし
婚姻関係が破綻していたとみられる場合
不貞行為時、すでに婚姻関係が破綻していた場合は、慰謝料の請求が認められません。
婚姻関係の破綻は、婚姻関係が完全に修復の見込みのない状態に立ち入っているような状態をいいます。
例えば次のような場合です。
- 不二夫が離婚を求め自宅を出て別居を開始した後に、愛子と不貞行為に及んだ
- 不二子の不貞が発覚したものの、不二夫において不二子と愛之助との関係を解消させずに放置していた など
既に精神的な損害を補う十分な慰謝料を受け取っている場合
不貞を行った配偶者から十分な慰謝料を受け取っている場合には、不貞行為による損害の支払いが済んでいることになり、不貞相手に慰謝料を請求することができません。
例えば、客観的に不二夫と愛子の不貞行為について、慰謝料として妥当とされる金額が100万円と考えられる場合、不二子が不二夫から既に慰謝料として100万円を受け取っているときは、不二子はさらに愛子に慰謝料を請求することができません。
時効の経過による場合
慰謝料請求についても時効があります。
不貞行為の事実及び不貞相手を知った時から3年が経過すると慰謝料の請求ができなくなります(民法724条第1号)。
不貞慰謝料の相場
不貞慰謝料は具体的にいくら請求できるのでしょうか。
ここでは、不貞慰謝料の相場や増額・減額の要素についてご説明します。
一般的な不貞慰謝料の考え方
不貞慰謝料は、個別のさまざまな事情や状況を考慮して金額を算出するため、明確な基準がありません。
そのため、弁護士が交渉に介入した場合、過去の判例などを参考にして金額を提示します。
裁判上の相場は、次のとおりです。
不貞行為により離婚した場合 |
100~300万円 |
不貞行為はあったが離婚はせず夫婦関係を継続する場合 |
50~100万円 |
金額の算定には、次のような具体的な事情が考慮されます。
- 夫婦関係について(年齢、婚姻期間、子の年齢や養育状況など)
- 不貞関係が始まった時点での夫婦関係について(円満であったか、破綻していたか、別居の有無など)
- 不貞関係が始まった経緯や内容について(期間、場所、どちらが主導か、子の有無など)
- 不貞関係が発覚した後の態様、夫婦や子に与えた影響
- 不貞相手について(年齢、配偶者の有無、職業など) など
慰謝料の増額要素となる事情
慰謝料の増額の要素には、次のような事情が挙げられます。
- 不貞行為が原因で離婚や別居に至った
- 婚姻関係が長い
- 夫婦間に未成熟の子がいる
- 不貞行為の期間が長い(おおよそ1年以上、婚姻期間との比較も考慮される)
- 不貞行為の頻度が多い(おおよそ十数回以上、不貞期間に対する頻度も考慮される)
- 不貞関係発覚後現在も不貞関係が継続している
- 不貞関係を解消するよう要請されたにもかかわらず継続している
- 不貞関係の解消を約束したにもかかわらず継続している
- 不貞行為により慰謝料請求側が被る精神的苦痛が重大(心身の不調、不貞相手の妊娠の有無など)
- 不貞相手が配偶者から経済的利益を受けたてた
- 不貞相手の行動が悪質(当初不貞行為があったにもかかわらず虚偽の主張をしていた、離婚するよう積極的に促していたなど) など
慰謝料の減額要素となる事情
慰謝料の減額の要素には、次のような事情が挙げられます。
- 婚姻期間が短い
- 夫婦間に子がいない
- 夫婦間の子が成熟している
- 不貞期間が短い
- 不貞行為の回数が少ない
- もともと夫婦関係が円満でなかった
- 夫婦間が離婚に至っていない など
不貞慰謝料の請求先
不貞慰謝料は、不貞行為により受けた精神的苦痛を償うために支払われるものであり、不貞行為をした配偶者と不貞相手が連帯して支払う責任を負います(民法719条第1項)。
請求する先は次の3通りがあります。
- 配偶者と不貞相手の両方
- 配偶者のみ
- 不貞相手のみ
以下でご説明します。
配偶者と不貞相手の両方に慰謝料を請求する
不貞慰謝料は、配偶者と不貞相手の両方に請求できます。
ただし、債務額を超えて二重に受け取ることはできないので注意が必要です。
例えば、不二夫と愛子の不貞行為による慰謝料が100万円であった場合、100万円の範囲であれば、どちらからどの割合で慰謝料を受け取っても良いことになります。
配偶者のみに慰謝料を請求する
不貞行為をした配偶者のみに慰謝料を請求することも可能です。
一般的には、配偶者の不貞行為により離婚することになった場合に、離婚にかかる慰謝料として請求します。
もちろん、婚姻関係を継続する場合も請求することは可能です。
しかし、婚姻関係を継続させる以上、夫婦は経済面で一体的に生活しているため実質的に意味をなさないと考える傾向にあるため留意が必要です。
配偶者の不貞相手のみに慰謝料を請求する
不貞相手にだけ慰謝料を請求することも可能です。
離婚をしない場合に、配偶者には請求せず、不貞相手にだけ請求することが多くみられます。
また、離婚はするが、配偶者には養育費などを確実に支払ってもらわなければならないため不貞に関する慰謝料は請求せず、不貞相手にだけ請求する場合もあります。
ただし、慰謝料を不貞相手のみに請求して支払ってもらった場合、不貞相手は交際していた配偶者に対して一部負担を求めることが可能です(求償権)。
例えば、不二子が、愛子に対して100万円の慰謝料を請求して支払ってもらった後に、愛子が不二夫に対して自身が負担した100万円のうち50万円を負担するよう支払いを求めてくる可能性があるということです。
不貞相手と慰謝料の支払いについて話し合う場合は、求償権の放棄についても合意を得るとよいでしょう。
不貞慰謝料を請求するための準備
証拠がなければ不貞慰謝料を請求できません。
不貞相手に慰謝料を請求する場合、請求する側が次の点を証明しなければなりません。
- 不貞行為の事実
- 不貞相手の故意過失
以下で詳しくご説明します。
証拠集め
不貞慰謝料を請求した場合、相手方から次のような反論をされることが考えられます。
相手方が配偶者の場合
- 肉体関係はなかった
- すでに婚姻関係は破綻していた など
相手方が不貞相手の場合
- 交際相手が既婚者だと知らなかった
- 夫婦関係がうまくいっていないと聞いていた
- 離婚予定と聞いていた など
こういった反論がなされた場合に備えて、請求側は証拠を集めなければなりません。
証拠がなければ、泣き寝入りするしかなかったり、逆に名誉棄損で訴えられてしまったりすることもあります。
不貞行為の証拠
不貞行為を示す証拠には次のものが挙げられます。
- 不貞を認めた念書や誓約書など
配偶者やその不貞相手と直接話し合うことがあれば、不貞を認める内容、その期間や場所などを「念書」や「誓約書」の文書で残すとよいでしょう。
この文書そのものに法的な効力はありませんが、当事者の署名押印があれば、不貞行為をした事実を示す証拠となります。
- 写真や動画
不貞相手と二人でホテルに入った時の様子、不貞相手の家に宿泊する様子などを撮影した写真や動画、不貞行為を記録した写真や動画は直接的な証拠となります。顔や日時がわかることが重要です。
- メールやLINEなどのメッセージのやりとり
肉体関係をもったことが推認される当事者間のやりとりも証拠となります。
- 電話の通話履歴
不貞相手との通話履歴も証拠となります。
着発信履歴を削除している場合でも、通話履歴や通話明細を取り寄せられる場合があります。
- 録音データ
配偶者の不貞行為を疑い夫婦間や不貞相手と話合いをすることがあれば、その会話をICレコーダーなどで録音しておくとよいでしょう。不貞相手と不貞行為を認める発言があれば証拠となります。
- ホテルなど宿泊先の領収書
夫婦間で身に覚えのない二人分の宿泊代金や行ったこともない土地のお店の領収書も証拠となりえます。
- クレジットカードの明細書
宿泊代金や外食費用などクレジット決済となっている場合に証拠となりえます。
- 探偵や興信所などの調査報告書
プロの調査会社などに依頼して決定的な瞬間を収めてもらうのもよいでしょう。
故意過失の証拠
不貞相手の故意過失を裏付ける証拠に次が挙げられます。
- 不貞相手が既婚者であることを知っていることが分かるメールやLINEなどのメッセージのやりとり
- 夫婦の結婚式などに不貞相手が出席した事実
- 不貞相手が夫婦の共通の友人知人で、当然に結婚していることを知っている
- 配偶者と不貞相手が同じ会社で働いており、配偶者は日常的に結婚指輪をしていた など
その他の証拠
以下のようなものも証拠となります。
配偶者の不貞行為前は夫婦関係が破綻していなかったことを示す証拠
- 家族旅行の写真
- 帰宅時間や夕食の有無を尋ねるメッセージのやりとり
- 体調を気遣うメッセージのやりとり
- 子の送迎の事実 など
配偶者の不貞行為により精神的損害が発生していることを示す証拠
- 診断書
請求相手が慰謝料の支払いに応じない場合の対応
個人間で解決しようとする場合、不貞相手に電話やメールなどで連絡を取ったり、呼び出して話し合いをしたりすることが予想されます。
話し合いの場で解決できれば良いですが、スムーズにいかないことが多くあります。
慰謝料が払われないからと言って、請求相手の自宅や勤務先に押し掛けたり、口外したりするとかえって不利となってしまうため注意が必要です。
配偶者や不貞相手に不貞慰謝料を請求しても、支払いに応じてくれない場合の対応についてご説明します。
慰謝料請求の流れ
慰謝料請求は、次のような流れで進めていきます。
まずは、請求相手に慰謝料を請求する内容を記載した通知書を送ります。
その後、回答があり、具体的な金額や支払い方法について話し合いで解決できれば、示談書を取り交わします。
支払い方法が分割払いとなる場合は、示談書の内容を公正証書にすることをお勧めします。
支払いが滞った場合に、強制執行ができる旨の文言を入れた公正証書を作成しておくと、預金や給料など財産の差し押さえができます。
一方で、通知書に対する返答がなかったり、返答があっても具体的な交渉ができなかったりした場合は、調停や訴訟をすることになります。
調停・訴訟について
話し合いで解決できない場合は、調停や訴訟を行います。
配偶者と離婚を考えている場合は、家庭裁判所に離婚調停を申立て、その中で慰謝料についても話し合えます。
離婚調停が不成立となった場合は、家庭裁判所に離婚訴訟を提起します。このときに不貞相手の慰謝料請求事件が地方裁判所に係属していたり、新たに提訴したりする場合は、二つの訴訟を一本化(併合)して家庭裁判所で審理してもらうことが可能です。
離婚調停をせずに配偶者に慰謝料を請求する場合や、配偶者と不貞相手を共同被告として請求する場合は、地方裁判所に慰謝料請求訴訟を提起します。不貞相手へのみ請求する場合も同様です。
まとめ
夫(妻)の浮気や不倫が発覚したら、配偶者やその浮気(不倫)相手に慰謝料を請求したい!という感情を抱くのも当然です。
しかし、実際に直接交渉となると感情的になって話合いがうまく進まなかったり、余計にこじれてしまったりすることがあります。
弁護士に依頼するメリットは次の5つです。
- 相手方が慰謝料を支払いに応じない場合に適切な慰謝料額での解決が期待できる
- 示談交渉で相手方と直接会わずに解決できる
- 相手方にプレッシャーをかけることができる
- 早期解決が期待できる
- 解決後のトラブルを未然に防ぐことができる
納得のいく解決のためにも、まずは弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。