離婚をして子どもの親権を持った場合、親権を持たない方の親に養育費を請求することができます。離婚時に養育費の支払いに相手は合意したにも関わらず、いざとなると養育費を支払ってくれないというケースは少なくありません。
時間が経過して支払いが滞ってくるようなケースもあれば、一度も支払ってくれないようなケースもあります。未払いの養育費はどのように回収すべきなのでしょうか?ここでは、未払いの養育費を回収する方法について解説します。
養育費を受け取っていない人の割合
子どもに対して親は扶養する義務を負うことは法律で定められており(民法第877条)、離婚をしてもその義務は子どもが成年になるまで続きます。そのため、離婚をして親権を持たない親は「養育費」として子どもを監護・養育する義務が発生します。
離婚をすれば養育費を元配偶者から当然受け取れると考えている方もいるでしょう。しかし、実際の養育費の受給状況は決してよいものとは言えません。厚生労働省の調べによると、養育費を現在も受けているという人は母子世帯で 24.3 %、父子世帯で 3.2 %と非常に低い割合です。
養育費を一度も受けたことがないという人は母子世帯で56%、父子世帯で86%と更に高い割合になります。養育費の取り決めを行っているという割合が母子世帯で42.7%、父子世帯で20.8%であるため、取り決めを行っているにも関わらず支払いが行われていないケースが多いことが分かります。
参考:厚生労働省「平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果報告」
未払い養育費を回収する方法
離婚によって支払ってもらえるはずの養育費が未払いになってしまっている場合、回収するための方法は複数あります。養育費を支払ってもらえないと泣き寝入りするのではなく、次の方法で養育費の回収を試みてください。
自分で催促する
まずは電話やメールなどで未払いの養育費の支払いを催促しましょう。「振り込み日を忘れていた」「仕事が忙しかった」「体調を崩していた」などの理由かもしれません。こうした理由であれば、催促すれば支払ってもらえる可能性があります。しかし、元配偶者と連絡が取れなくなってしまったような場合には、早い段階で弁護士に相談して法的な請求を行うことを検討していくべきです。
内容証明郵便で催促する
内容証明郵便とは、誰が誰宛にいつどんな内容の書面を送付したのか証明することができる郵送サービスです。内容証明郵便で催促を行うことに支払いを強制できるような効力はありませんが、裁判になった際の証拠としての証明力が高くなります。
メールや電話を無視されていたとしても、元配偶者の住所が分かっていれば送付することができ、相手が受け取ったことを証明できます。弁護士に依頼すれば弁護士名義で催促でき、相手は法的手段の一歩手前であることを知ります。そうすれば、裁判を避けたいと考えて何らかの返答がくる可能性が高まります。
養育費請求調停を申立てる
養育費請求調停は、家庭裁判所に申し立てることで行える調停手続きです。裁判所に選任された調停委員会が両者の主張を聞き、話し合いを進めていきます。協議で要求通りに調停が成立すれば、養育費の未払い分を回収することが望めます。
しかし、相手が合意しなければ調停は不成立になり、自動的に審判へ移行することになります。審判では調停で提出された資料や協議内容から裁判官が判断を下します。
家庭裁判所からの履行勧告・履行命令
養育費請求調停や審判で養育費の未払い分を支払うように取り決めたにも関わらず、相手が支払ってくれないようなケースもあるでしょう。この場合は、家庭裁判所へ履行勧告・履行命令を申し立てることができます。
履行勧告・履行命令は、裁判所より取り決め通り養育費を支払うように勧告や命令を出してもらうことです。履行命令に従わない場合は10万円以下の罰金が課せられます。ただし、これらの手続きには強制的に支払わせる効力はありません。
強制執行による回収
家庭裁判所からの履行勧告や履行命令にも相手が従わない場合には、強制執行の手続きへ移行するという手段があります。強制執行とは相手の財産を差押え、その財産を換価して強制的に回収する方法です。
差押えができる財産には家や車、預金、給料などが挙げられます。ただし、強制執行を行うには債務名義の公的書類が必要です。債務名義の公的書類は、確定判決や和解調書、調停調書、審判書正本など裁判手続きを行った際に取得できる書類になります。
例外として、強制執行認諾文言付き公正証書で養育費の支払いについて約束している場合は、裁判手続きを行うことなく強制執行を行うことが可能です。
未払い養育費の請求期限とは
未払いの養育費を請求できる権利には時効があります。時効が成立すれば請求できなくなってしまうため注意が必要です。協議や裁判手続きで養育費について「毎月●円を●日に支払う」という具体的な取り決めを行っている場合、法律上では「定期給付債権」として扱われます。定期給付債権の消滅時効は、支払い期日の翌日から5年です。(民法第169条)
過去分の養育費もまとめて請求できるのか
過去の養育費もまとめて請求したいと考える方もいるかもしれませんが、養育費の取り決めが行われていなければ養育費の具体的な請求権は発生していないことになります。
そのため、養育費の取り決めをする前の過去の養育費に関しては請求することはできません。ただし、協議で相手が過去の養育費もまとめて支払うことに合意すれば、過去分もまとめて養育費を受け取ることができます。
養育費回収の対応が難しい場合は弁護士に相談する
離婚をすれば元配偶者とは別々の人生を歩むことになるため、親権を持たない方の配偶者は養育費を徐々に支払わなくなるというケースも少なくありません。養育費の回収の対応が難しいという場合は、弁護士に相談してみてください。
弁護士に相談すれば、未払いの養育費の回収を今後どのような手段で行うべきか見通しを立てることができます。そして、依頼をすれば代理人として弁護士が督促や法的手続きを行ってくれるため、全てを任せることができます。
養育費回収の弁護士費用の相場
養育費の回収を弁護士に依頼したいと考えても、弁護士費用が高額になるのではないかと不安に思う方も多いでしょう。養育費回収を弁護士に依頼した場合、発生する費用は着手金と報酬金、実費が主な内訳になります。
着手金は実際に依頼を受けた時に発生する費用で、途中で依頼を取り下げても返金はされません。弁護士事務所によって着手金の金額は異なりますが、10万円前後が相場です。そして、問題解決によって発生する費用が報酬金であり、養育費回収の場合は相手から回収した金額の10~20%を支払うことが一般的です。
弁護士への初回相談は無料の弁護士事務所も多いため、まずは無料相談で弁護士費用や養育費の回収について相談してみましょう。
まとめ
養育費は離婚しても元配偶者に支払う義務があり、未払いの場合は請求することができます。すでに離婚時に養育費の支払いについて取り決めをしていた場合には、裁判所の手続きによって回収することが可能です。
離婚時には養育費の取り決めをしていなかった場合でも、今後の養育費について請求することもできるため、まずは弁護士に相談しましょう。弁護士に相談すれば、自力では難しい養育費の回収の心強い味方になってもらうことができます。