離婚の慰謝料というと、夫が妻に支払っているイメージをお持ちの方が多いかもしれません。しかし、妻に離婚原因がある場合は、妻に慰謝料を請求することができます。ただし、妻のどのような言動や行動が離婚の原因になったのかという点が慰謝料請求では重要なポイントになります。
ここでは、妻が原因で離婚の慰謝料を請求できるケースについて解説します。併せて、離婚時の財産分与や親権についても紹介しているので参考にしてください。
妻が原因で離婚の慰謝料を請求できるケース
妻が離婚原因を作った有責配偶者の場合、慰謝料を請求することができます。慰謝料とは、不法行為によって受けた精神的苦痛に対する損害賠償金です。つまり、妻の有責行為が不法だった場合に慰謝料を請求することができるということになります。よくあるケースとしては次の通りです。
妻の不倫
夫婦には貞操義務があり、配偶者以外と性交渉することを法律上では「不貞行為」と呼びます。不貞行為は法定離婚事由(民法第770条)の1つでもあり、法律上で守られるべき婚姻生活の平和を維持する権利を侵害する不法行為だと考えられています。そのため、妻が不貞をしていた場合は慰謝料の請求が可能です。
また、不倫は妻と不倫相手の二人で行う共同不法行為です。共同不法行為があった場合、加害者は連帯して損害を賠償する義務を負うことが法律で定められています。(民法第719条)そのため、妻だけではなく不倫相手にも慰謝料を請求することができます。
妻のDV、モラハラ
妻からDVやモラハラを受けているという夫も少なくありません。DV(ドメスティックバイオレンス)は身体的暴力のことを指し、殴る・蹴る・物を投げるなどの行為が該当します。DVの場合は身体的暴力なので分かりやすいですが、モラハラ(モラルハラスメント)は精神的暴力になるため判断が難しいと考える方も多いでしょう。
暴言やヒステリックに怒鳴られるだけではなく、無視されることや嫌味を言われることもモラハラに含まれます。また、友人関係を制限されることや、GPSなどをつけて行動を監視される行為などもモラハラです。DVもモラハラも他人の人格や身体を侵害する行為になるため、慰謝料請求をすることができます。
その他
夫婦には同居・協力・扶養の3つの義務があることが法律で定められています。(民法第752条)そして、この義務を正当な理由なく履行しないことを「悪意の遺棄」と呼び、法定離婚事由の1つに規定されています。悪意の遺棄があった場合も慰謝料の請求が可能です。具体的に次のようなケースでは悪意の遺棄と判断され、慰謝料が請求できると考えられます。
・理由もなく家出をし、何カ月も子どもを放置して帰ってこない
・ギャンブル癖があり、夫に内緒で借金を繰り返している
・妻の浪費がひどく、生活費を使い果たして子どもの貯金にまで手を出している
こうしたケースでは慰謝料を請求できますが、浪費が原因の場合は相手に慰謝料を支払う預金がないため慰謝料を支払ってもらうことは難しいと考えられます。
離婚の慰謝料を請求できないケース
妻に離婚の慰謝料を請求したいと考えても、請求できないようなケースもあります。まず、双方に離婚原因がある場合や、あなたに離婚原因がある場合は慰謝料を請求することが出来ません。
例えば妻が不倫をしていたとしても、その前にあなたも不倫をしていたのであれば、あなたの不倫から夫婦関係が破綻してしまったと判断されてしまう可能性があります。また、性格の不一致は双方に離婚原因があると考えられるため、慰謝料は請求できません。
妻が原因で離婚したら財産分与はどうなる?
離婚時には、夫婦が協力して築いた財産は分配されることになります。妻が専業主婦で夫だけに収入があったという場合でも、妻は育児や家事でサポートとして財産の維持に尽力したと考えられるため、夫婦で財産を2分割することが一般的です。
そして、財産分与に離婚原因は関係しません。離婚原因と財産の形成・維持は別の物として考えられます。ただし、妻に離婚の慰謝料を請求しても支払うことのできる預金が妻にない場合、協議で財産分与を慰謝料の代わりにするようなケースがあります。慰謝料分の財産を引いた状態で妻に分配し、慰謝料代わりにする方法です。
妻が原因で離婚した場合の子どもに関する事
夫婦に子どもがいる場合、子どものことが心配だという方も多いでしょう。妻が原因で離婚する場合に子どもの親権や養育費はどのようになるのでしょうか?
親権は妻が獲得するケースが多い
夫婦が離婚する際には、両親のどちらが親権を獲得するのか決めなければなりません。親権とは子どもの監護や養育を行う権利で、離婚後に子どもと一緒に住む親が持つことになります。親権は父親が獲得するケースもありますが、母親が獲得するケースの方が圧倒的に多いです。
裁判で親権を決める際には、「母性優先の原則」という考え方があります。子どもが幼いほど母親が必要だという考え方であり、子どもの年齢が低いほど母親が親権獲得には有利になると言えます。
養育費は払わないといけない
親権を持たない方の親は、養育費を支払う必要があります。養育費とは、生活費や学費、医療費など子どもの監護・養育に必要な費用です。
子どもが成年するまでは親には扶養する義務があり、離婚してもその義務は無くなりません。そのため、親権を妻が獲得するのであれば、子どもが成年するまでの養育費を夫が支払うことになります。養育費に関しては、裁判所が作成する「養育費算定表」を利用して算出することができます。
父親が親権を獲得するためにやるべきこと
親権の獲得は母親に有利な傾向にありますが、父親が親権を獲得できるようなケースもあります。母親が子育てをせずに遊び歩いているようなケースや、子どもと放置して不倫をしていたようなケースです。また、育児放棄や薬物依存、重度の病気などの場合も母親に子どもの監護・養育は難しいと判断されるため、父親が親権を獲得できる可能性が高いでしょう。
こうしたケースに該当しない場合でも、父親が親権を獲得したい場合には、父親の方が子どもを育てる環境に適していることをアピールする必要があります。子どもの監護を継続的に行っていたことをアピールできるように、平日の帰宅後や休日に子育てに励むようにしましょう。
離婚後は、日中に祖父母が子どもの面倒を見られるような環境であると有利になると考えられます。10歳前後の年齢になれば子どもの意思も尊重されるようになるため、日頃から子どもとの絆を強めておくことも大切です。
妻に請求できる離婚の慰謝料相場
妻が離婚の原因を作った場合、請求できる慰謝料の相場金額は50~300万円と言われています。慰謝料の金額は、夫婦関係や有責行為の悪質性などが考慮されて決められます。そのため、婚姻期間が長いほど慰謝料の金額は高額になる傾向にあります。
その他にも、子どもの有無や離婚する年齢、年収なども慰謝料金額を左右する要因です。ご自身の状況の場合の慰謝料金額の相場を知りたい場合には、弁護士に相談してみてください。過去の判例などから相場金額を知ることができ、慰謝料請求の参考になるでしょう。
まとめ
妻に離婚原因があるのであれば、その内容によっては慰謝料を請求することができます。慰謝料を請求する場合には、不倫やモラハラなど離婚原因になった行為を証明するための証拠を集めるようにしましょう。そして、離婚時には財産分与や親権、養育費など決めるべき条件が複数あります。
少しでも有利な条件で離婚をするために、弁護士に相談することをおすすめします。慰謝料請求や離婚条件に関するアドバイスを得ることができ、相手との交渉や手続きなども全て任せることができます。