悪意の遺棄で離婚する際の慰謝料相場

離婚を検討する夫婦

本来夫婦はともに協力し合って生活すべきところを、協力をせずに夫婦の義務を放棄された場合には「悪意の遺棄」を原因に離婚することも可能です。今回は離婚の際に頻出する用語「悪意の遺棄」にスポットを当てて、慰謝料の相場などを中心に詳しく解説します。

目次

悪意の遺棄とは

悪意の遺棄は、民法第770条で定められた「裁判で認められる離婚理由」です。夫婦の一方は「配偶者から悪意で遺棄されたとき」に離婚の訴訟を起こすことができるのです。具体的な行為としては、次のような行為が挙げられます。

  • お願いしても配偶者から生活費をもらえない
  • ギャンブルばかりで働いてくれない
  • 連絡先が分からない場所で生活しており帰ってこない
  • 配偶者や子の存在をぞんざいに扱い、家から追い出す
  • 健康なのに家事も仕事もしてくれない

悪意の遺棄は、あくまでも「悪意」があることが前提で、夫婦が協力すべきものを配偶者が故意に協力してくれないことが悪意の遺棄に該当します。例として、病気などの理由により働けないなどの正当な理由がある場合や家事や育児に非協力、という程度では悪意の遺棄とは言い難いのが実情です。

離婚の訴えが提起できるその他のケース

民法770条では、悪意の遺棄以外にも離婚ができる事由を規定しています。

  • 配偶者の不貞行為
  • 配偶者の生死が3年以上不明
  • 配偶者の重大な精神疾患(回復の見込みがない場合)
  • 婚姻を継続することが難しい重大な問題がある場合

例として、不貞行為によって勝手に家を出て行ってしまい別居されてしまった場合は、悪意の遺棄ではなく不貞行為における離婚事由とみなすことができます。

また、長く生活していく上で家事や育児に協力的でないことは夫婦関係に大きな影を落とすことになり「婚姻を継続し難い」とは言えるので、離婚事由には該当すると考えられます。

同じように生活費も金額の感覚が夫婦間で不一致の場合も、悪意の遺棄とは言い難いですが婚姻を継続し難いとして争うことが可能です。

悪意の遺棄になる行為とは

この項ではもう少し具体的に「悪意の遺棄になる行為」について解説します。悪意の遺棄になる行為とは、以下の3つに分類することができます。

同居義務に反する行為

民法752条に規定されているとおり、夫婦は同居をし互いに協力し合って扶助をしあう義務があります。生活全般をお互いに支え合うことが夫婦の義務なのです。

同居義務に反して、正当な理由もなく家出・別居されてしまった場合は「同居義務に反する行為」として悪意の遺棄と言えるでしょう。実際によくあるケースは以下の通りです。

  • 介護などの理由もないのに、突然実家に戻ってしまい帰ってこない
  • 理由もなく配偶者から家を出るように仕向けられる
  • 突然アパートやマンションを借りて出て行ってしまった

DVによる別居や介護・育児によって「やむを得ず別居した場合」などは、同居義務に反する行為には該当しません。

協力義務に反する行為

夫婦はともに協力し合う義務があります。配偶者の一方がこの義務を放棄してしまった場合も協力義務に反する行為として悪意の遺棄に該当します。主な行為は以下のとおりです。

  • 生活費に全く協力せず、浪費を重ねている
  • 健康なのに働いてくれず家事もしない
  • 生活全般に非協力で、努力を求めても拒否される

扶助義務に反する行為

扶助義務に反する行為は主にお金の問題です。協力義務と重複している部分が多いですが、生活費に協力してくれない、子どもに関するお金を入れないまま別居を続けているなどの行為が該当します。病気などの理由もないのに、働いてくれない場合も悪意の遺棄に該当します。

悪意の遺棄にならない行為とは

悪意の遺棄は、判断が難しいケースも多いのが実情です。悪意の遺棄は話し合いを拒否され、双方の同意がない行為が該当するため、納得して別居している(介護や育児、単身赴任など)場合は悪意の遺棄とは認められません。

また、一方的な別居がDVを原因としている場合には別居に正当な理由があります。この他に、病気や倒産などの理由でやむを得ず離職しており、就労しようと努力しているにも関わらず就職できていない場合も悪意の遺棄とは言えないでしょう。

また、一方の配偶者からすると、実はきちんとした理由がある可能性があります。例として、生活費を求めている側にギャンブル癖がある、使途不明な使い込みや借金が多いなどのケースでは、生活費を渡さない正当な理由であると考えられます。

悪意の遺棄による慰謝料の相場とは

悪意の遺棄と認められれば、配偶者に対して慰謝料を請求することが可能です。では、悪意の遺棄が原因で配偶者に慰謝料を求める場合、どのぐらいの金額を得ることができるのでしょうか。

一般的に悪意の遺棄による慰謝料の相場は「50~300万程度」の範囲とされています。別居期間が長かったり、生活費をもらえなくなってから年月が経過していたりする場合にはこの相場を超えることも予想されます。ただし、一般的には100万前後が多く、300万台の慰謝料は悪意の遺棄による慰謝料としては高額です。

悪意の遺棄を証明するための証拠とは

正当な慰謝料の獲得を目指すためには、悪意の遺棄を証明する証拠を集める必要があります。では、具体的にはどんな証拠を集めると良いでしょうか。

お金に関する証拠集めのポイント

生活費を入れてくれない場合には、生活費を家計に入れていない具体的な証拠を残していきましょう。通帳の履歴や実際の家計簿を残していくことで、配偶者が生活費を渡さず、ご自身の努力で生計を維持せざるを得なかったことがわかります。

また、生活費を求めている内容のLINEやメールも残しておくことをおすすめします。配偶者の浪費が激しい場合には借入状況がわかるものやギャンブル、投機性が高いものの取引履歴(馬券や投資の内容がわかるものなど)を記録しておきましょう。

同居に関する証拠集めのポイント

一方的に別居されてしまった場合には、別居の解消を求めるメールや電話の録音、手紙のやり取りや相手の住まいに関する調査を行いましょう。場合によっては不貞行為の相手と暮らすために別居している可能性もあり、不貞行為の相手への慰謝料請求も可能となるかもしれません。

しかし、無理な調査は相手に勘付かれてしまい、証拠を消されてしまう可能性もあります。別居や不貞行為に関するお悩みは、早めに弁護士などの専門家へ相談されることがおすすめです。

まとめ

この記事では離婚事由になる「悪意の遺棄」に関して詳しく解説しました。聞き慣れない言葉かもしれませんが、当記事で少しでも理解を深めていただけたら幸いです。

現在生活費の未払いや配偶者の家出などでお困りの場合には、悪意の遺棄を理由に離婚できる可能性もあります。また、悪意の遺棄には該当しなくても、他の法定離婚事由に該当することもあるでしょう。慰謝料の請求や離婚のご相談については、お気軽に弁護士へご相談ください。

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