離婚に伴う養育費請求を解説!

親には、子どもを扶養する義務があります。

離婚により、親権がなくなっても子どもの親であることに変わりはありません。

民法においても、離婚時に父母の協議によって子どもの養育費を決めるよう定められています。

 

民法第766条 (離婚後の子の監護に関する事項の定め等)

父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。

2 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、同項の事項を定める。

3 家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前二項の規定による定めを変更し、その他子の監護について相当な処分を命ずることができる。

4 前三項の規定によっては、監護の範囲外では、父母の権利義務に変更を生じない。

参考:民法|e-Gov法令検索

 

この記事では、養育費についてご説明します。

養育費とは

養育費とは、子どもの監護や教育のために必要な費用のことです。一般的には、子どもが経済的・社会的に自立するまでにかかる費用であり、例えば次の3つがあります。

  • 子どものための衣食住の費用
  • 教育費
  • 医療費

両親の離婚後は、その経済力に応じて子どもの養育費を分担しなければなりません。子どもを監護養育する親は、もう一方の親から養育費を受け取れます。

養育費の支払状況

実際に養育費をきちんと受給している世帯は多くありません。

厚生労働省の平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果によると、現在も離婚した父親から養育費を受けているが 24.3 %、離婚した母親から受けているが 3.2 %でした。一方で、離婚した父親から養育費を受けたことがないは56.0%、離婚した母親から受けたことがないは86.0%です。大多数が養育費を受給していません。

参考:平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果|厚生労働省

そもそも母子世帯、父子世帯ともに過半数以上の世帯が養育費の取り決めを行っていません。

参考:平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果|厚生労働省

養育費の取り決めをしない理由は次のとおりです。

参考:平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果|厚生労働省

母子世帯、父子世帯ともに相手とかかわりたくない、相手に支払う能力がないと思ったという理由が上位です。

 

養育費の算定方法

具体的な養育費の金額は、双方が納得していればいくらでもかまいません。

一般的には家庭裁判所が公表する養育費算定表をもとに、次の項目により適正額を算定しています。

  • 両親の収入
  • 子の人数
  • 子の年齢

ここでは養育費の算定方法についてご説明します。

養育費算定表

以下は、家庭裁判所のホームページにも掲載されている養育費の算定表です。

表1 養育費・子1人表(子0~14歳)

表2 養育費・子1人表(子15歳以上)

表3 養育費・子2人表(第1子及び第2子0~14歳)

表4 養育費・子2人表(第1子15歳以上、第2子0~14歳)

表5 養育費・子2人表(第1子及び第2子15歳以上)

参考:平成30年度司法研究(養育費、婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告について|裁判所

 

例えば、夫婦の子が、3歳児1人の場合は、表1を使用します。

母親が親権者となり子を養育する場合、権利者は母、義務者は父です。

給与所得者の年収とは、源泉徴収票の支払金額(控除されていない金額)です。自営業者の年収とは、確定申告書の課税される所得金額です。

両親ともに給与所得者であり、母の年収が175万円、父の年収が500万円の場合、標準的な養育費の月額は4~6万円です。

参考:養育費・婚姻費用算定表について(説明)|裁判所

養育費の相場はどれくらい?

厚生労働省の全国ひとり親世帯等調査によれば、平成28年の1世帯あたりの養育費の平均月額は、母子世帯が4万3707円、父子世帯が3万2550円でした。

参考:平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果|厚生労働省

ただし、養育費は、父母の収入等によって算出すべきです。そのため、平均の金額は参考にすぎません。

相場より養育費が高くなるケース

家庭裁判所が公表する算定表は、様々な養育状況を網羅していません。

算定表は、子どもが公立学校に進むことを前提として算出しています。また、医療費についても、一般的な治療費のみしか考慮されていません。

そのため次のケースでは、相場よりも高い養育費を請求できる可能性があります。

  • 相手方が私立学校や学習塾等への習い事に通うことを了承している
  • 子どもに重度の障害があり、一般的な治療費以上がかかる など

養育費の支払期間

養育費は、毎月の定期払いが一般的です。

では、いつからいつまで支払うべきなのでしょうか。

養育費の支払い始期

調停離婚や裁判離婚で養育費について取り決める場合は、養育費の支払開始時期を離婚成立の月からです。

また、離婚後に養育費の取り決めを調停・審判で定める場合は、申立日の属する月からです。ただし、申立ての前に、内容証明郵便などで養育費を請求したことが客観的に明らかな場合は、請求した月から認められることがあります。

養育費の支払い終期

養育費の支払い終期は、子どもの経済的な自立が見込める時期を考え、子どもの成長のために十分な期間を設けましょう。

審判や裁判上は、基本的に子どもが20歳になる月までとするケースが多いです。民法改正により2022年4月1日から成人年齢が18歳に引き下げられましたが、養育費の終期は満20歳になる月までとされるようです。

もっとも、近年は大学へ進学する子どもが多いため、協議や調停では、22歳の3月までとしたり、大学進学を条件として大学卒業までとしたりするケースもあります。

 

養育費の決定・請求方法

養育費については、離婚時に取り決めるのが一番良いです。

養育費の取り決めの方法について以下でご説明します。

話し合いで決める

まずは、父母で話し合いましょう。

取り決めを行う際は、養育費の支払いがスムーズに行われるように次の4点を具体的に決めます。

  • 養育費の金額
  • 支払期間
  • 支払時期
  • 振込先

また、取り決めた内容は口約束ではなく、必ず書面に残しましょう

支払人の不払いの心配がある場合は、公正証書を作成すると良いです。実際に養育費の支払いが滞ったときに強制執行ができます。

調停

話し合いがまとまらない場合や、話し合いに応じてもらえない場合は、家庭裁判所の家事調停手続を利用しましょう。

離婚を求めるとともに、離婚後の養育費についても取り決めたい場合は、離婚調停の中で話し合えます。離婚後や未婚の場合は、養育費請求調停を単体で申立てます。

調停では、裁判官と民間から選ばれた調停委員2人が間に入り、非公開の場で、子の人数や年齢、双方の収入などを確認したうえで、話し合いを行い、解決を目指します。

裁判

離婚調停が不成立となった場合は、離婚裁判を提起し、離婚と同時に養育費についても求めます。

養育費は、離婚裁判の中で一緒に争われる離婚条件のうち2番目に多い項目です。

参考:人事訴訟事件の概況-令和2年1月~12月-|最高裁判所事務総局家庭局

 

離婚後や未婚でも養育費を請求できる

養育費は、離婚後または未婚であっても請求できます。

また、離婚時に養育費について取り決めたが、裁判所の手続や公正証書による合意でないため新たに取り決めたり、離婚後の生活状況の変化により養育費の金額を変更したりできます。

ここでは養育費の請求の方法についてご説明します。

話し合いで請求する

養育費について話し合いで取り決められればよいです。

しかし、離婚後の養育費の請求は、相手側の生活環境が婚姻時と変化しているので、交渉がうまくいかない可能性が高いです。また、未婚での養育費の請求は、父に子を認知してもらう必要があるため、子の認知から争う必要があるケースが多く容易ではありません。

養育費請求の調停申立

当事者間での話し合いが難しい場合は、養育費請求の調停を申立てます。

申立書の提出先

養育費の調停申立書などの提出先は、相手方の住所地の家庭裁判所または当事者が合意で定めた家庭裁判所です。

申立費用

申立てに必要な費用は次のとおりです。

  • 収入印紙

手数料として1,200円分を収入印紙で納めます。

  • 郵便切手

裁判所からの申立人と相手方への連絡用の郵送代として納めます。総額と内訳は、裁判所によって異なります。

仙台家庭裁判所の場合は、次のとおりです(令和2年4月20日改訂版)。

必要書類

申立て時に家庭裁判所に提出する書類は次のとおりです(ここでは、仙台家庭裁判所の書式を参考にご紹介します。)。調停の際に手元に控えがあると便利なので、提出した書類はすべてコピーを取りましょう。

  • 養育費の調停申立書 原本とその写し各1通

原本は家庭裁判所、写しは相手方分として提出します。

申立書の書式は裁判所のホームページに掲載されています。また、家庭裁判所には複写式の専用用紙が設置されています。

参考: 家事調停・審判申立書(養育費請求・養育費増額請求・養育費減額請求)|裁判所

  • 事情説明書

参考:事情説明書(養育費)|裁判所

  • 進行に関する照会回答書

参考:家庭裁判所への申立て等で使う書式例|裁判所

  • 送達場所等の届出書

参考:家庭裁判所への申立て等で使う書式例|裁判所

  • 子どもの戸籍謄本(全部事項証明書) 1通

3か月以内に発行されたものが必要です。

  • 収入に関する資料

源泉徴収票や確定申告書、直近3か月分の給与明細書の写しなどが必要です。

  • (過去に養育費の取り決めがある場合)取り決めに関する書類や支払い状況がわかる書類

取り決めに関する書類については、公正証書、調停調書、審判書、判決などの写しが必要です。また、支払い状況がわかる書類については、振込口座などの写しが必要です。

養育費の調停の成立

調停は、月1回のペースで終了するまで複数回開かれます。

話し合いがまとまると、調停が成立し、裁判所によって調停調書が作成されます。

支払人は、調停調書に記載された方法に則って養育費の支払いをしなければなりません。

養育費の調停の不成立

調停で話し合いがまとまらない場合は、調停手続は終了し、自動的に審判手続に移行します。審判手続では、必要な審理が行われた後に裁判官が一切の事情を考慮して、審判をします。

審判に不服がある場合は、審判の告知を受けた日から2週間以内に異議の申立てができます。

養育費の免除の可能性がある場合

次のような場合は、養育費の支払いが免除される可能性があります。

  • 支払人の経済状況が病気や怪我などのやむを得ない事情で悪化した場合
  • 受取人の経済状況が大幅に支払人を上回っている場合
  • 受取人が再婚し、再婚相手と子どもが養子縁組した場合

 

養育費の支払いが滞った場合の対処法

養育費の取り決めをしても、支払いが滞る、全く支払われないといったご相談はよくあります。

ここでは、養育費の支払いが滞った場合の対処法についてご説明します。

口約束や任意の合意書

内容証明郵便により相手方に支払うよう催告しましょう。

そこで支払ってもらえれば良いですが、催告しても支払ってもらえない場合、口約束や任意の合意書では支払いを強制できません。

強制執行などの法的手続きを取るために、養育費調停を申立てる(合意書がある場合は訴えを提起する)必要があります。

履行勧告

調停、審判、裁判など裁判所の関与のもと養育費の取り決めを行った場合、取り決めを守らない人に対して裁判所から支払いを促す履行勧告という制度を利用できます。

履行勧告の申出は、養育費の義務を定めた家庭裁判所に対して行います。書面、口頭、電話のいずれの方法によっても可能です。

履行勧告の手続に費用はかかりません。

ただし、支払わない人に対して支払いの強制はできません。

強制執行

公証役場で作成した公正証書、調停調書、審判、判決に養育費の取り決めが書かれている場合、強制執行の1つである債権執行の手続きができます。

債権執行とは、支払人の給料や預貯金などを差押えて、その中から強制的に支払いを受ける手続きです。

債権執行の流れは次のとおりです。

なお、支払人の給料など継続的に支払われる財産を差し押さえた場合、養育費については、未払分に限らず将来支払われる分についても差押えられます。

財産調査

差押えの手続きでは、支払人のどの財産を差押の対象とするかを確定しなければなりません。

給料を差押えるには、支払人の勤務先を、預貯金を差押えるには、支払人の預貯金を取り扱っている金融機関を特定する必要があります。

せっかく差押えの手続をしても、すでに転職していたり、預貯金が残高不足だったりしては空振りに終わってしまいます。そのような状況を避けるため、差押えの手続き前に裁判所の手続きを使って支払人の財産を調査する2つ方法があります。ただし、いずれの方法も強制執行に必要な債務名義(公正証書、調停調書、審判書、判決書など)がある場合に利用できます。

債務者の財産開示手続

債務者の財産開示手続とは、受取人の申立てにより、裁判所が支払人を呼び出して、支払人の財産について明らかにさせる制度です。

債務者の財産開示手続の流れは次のとおりです。

第三者からの情報取得手続

第三者からの情報取得手続とは、受取人の申立てにより、裁判所が支払人の財産に関する情報のうち、預貯金については金融機関に対し、勤務先については市町村や厚生年金を扱う団体に対し、情報を提供するよう命じてもらう制度です。

第三者からの情報取得手続の流れは次のとおりです。

仙台市の養育費保証契約保証料補助制度

養育費保証契約とは、養育費の支払いが滞った場合に、民間の保証会社が養育費の支払人の連帯保証人となり、養育費の立替え払いや支払人への督促をしてくれるものです。

仙台市では、この養育費保証契約に係る保証料について5万円を限度に補助する制度を設けています。強制執行同様に公正証書や調停調書、審判、判決に養育費の取り決めが書かれている文書がある場合に利用が可能です。

どの保証会社も保証期間や金額に上限がある点がデメリットです。しかし、養育費の未払いがあった場合に、直接支払人と交渉せずにとりっぱぐれを防げるため、対策のひとつと考えてもよいでしょう。

 

再婚した場合の養育費はどうなる?

離婚後の生活環境の変化のひとつに再婚があります。

再婚により養育費の減額や免除が認められる可能性があります。以下でご説明します。

再婚した場合に養育費は減額されるのか

単に再婚したからと言って必ず養育費の減額や免除ができるわけではありません。いくつかの条件に当てはまる場合に可能となります。

再婚相手と子が養子縁組した場合

養育費の受取人が再婚し、その再婚相手と子どもが養子縁組した場合は、養育費の減額や免除が認められる可能性があります。

再婚相手と子どもが養子縁組すると、法律上の親子となり、再婚相手に子どもの扶養義務が発生するからです。

ただし、養子縁組をしたからと言って当然に減額や免除となるわけではありません。養育費の減額や免除を希望する場合は、家庭裁判所に養育費の減額請求の調停申立てを行わなければならなりません。

再婚相手と子が養子縁組しない場合

養育費の受取人が再婚しても、その再婚相手と子どもが養子縁組をしない場合は、養育費の支払いに影響は及びません。

再婚相手との間に新たに子どもができた場合

養育費の支払人が再婚して、再婚相手との間に新たに子どもができた場合は、養育費の減額が認められる可能性があります。ただし、家庭裁判所に養育費の減額請求の調停を申立て、扶養家族が増え、明らかに養育費の支払いが困難な状況であることを示す必要があります。

 

養育費請求を弁護士に依頼するメリット

養育費請求について、弁護士に依頼するメリットは次のとおりです。

相手方と直接話さなくて済む

相手方との交渉はすべて弁護士が行うため、直接相手方と話す必要はなくなります。

ご自身での交渉は、時間や手間がかかり負担が大きくなります。特に離婚後の交渉は、お互いに生活環境が変わっているため、労力がかかります。

弁護士に依頼することで、精神的にも負担軽減となります。

養育費の適正額がわかる

養育費の算定表は裁判所のホームページに掲載されており、一般的な金額は把握できます。しかし、算定表は個別の事情が網羅されていません。事情や経緯などは様々です。

弁護士に依頼することで、案件にあった適正額がわかります。

相手方の家計収支を出させやすくする

養育費の算定には、双方の収入状況を把握する必要があります。さらに、支出状況も明らかにしなければならない場合もあります。特に離婚後は生活状況が異なるため、協議の場合、相手方の家計収支を明らかにしてもらうことは難しいでしょう。

弁護士が間に入ることで、相手方の収支状況を出させやすくなります。

裁判手続を利用する場合の煩雑な書類作成を任せられる

話し合いでまとまらない場合は、調停手続を利用しなければなりません。

裁判所での手続では資料を集めたり、書類を作成したりと手間がかかります。また、毎月開かれる期日に出頭する必要があり、時間的にも負担がかかります。

弁護士に依頼することで、書類作成の手間が省けます。また、調停の際は、弁護士が期日に同席するため、専門的なアドバイスが可能です。

 

ネクスパート法律事務所仙台オフィスに養育費請求を依頼した場合の費用

ネクスパート法律事務所仙台オフィスにご依頼された場合の養育費請求の弁護士費用は、「弁護士費用」のページをご参照ください。

 

まとめ

離婚後の未成年の子の養育費については、相手と関わりたくない、相手に支払う能力や意思がないと思ったという理由から取り決めさえされず、支払いを受けていない世帯が大多数あります。

離婚し、親権がなくなっても子の親であることに変わりはありません。

 

養育費の請求や滞納に対する督促などでお困りの方、他方で離婚後に生活環境が変わり支払いたくても支払いが困難である方は、まず弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。