生活費を入れない夫と離婚したい!慰謝料は請求できる?

婚姻した夫婦には扶助義務があることをご存じでしょうか。夫婦の一方に扶助が必要な時は他方が助けるという義務で、最低限の生活費を渡さなかったり、生活費の大半を趣味やギャンブルに使いこんだりするのは扶助義務違反とされ、裁判でも認められる離婚原因にもなります。

今回は十分な額の生活費を入れてくれない夫と離婚を考えている方向けに、慰謝料と婚姻費用分担請求する方法、そして離婚するときに知っておくべきことを解説します。

目次

生活費を入れない夫に離婚・慰謝料を請求するのは可能

生活費を入れないことを理由に夫に対して愛情がなくなり、離婚を考えている女性もいるかもしれません。最低限の生活費を入れないことは経済的なDVであり、モラハラです。生活費を入れないことは婚姻生活が破綻する原因になるだけでなく、妻側は精神的に大きな苦痛を受けます。

こうした夫の行為は民法が定める離婚事由である「配偶者から悪意で遺棄されたとき」に該当するので、離婚はもちろん、慰謝料の請求ができます。なお、生活費は過去に遡って請求することもできます(詳しくは後述します)。

共働きの場合はどうなる?

では、共働きの場合はどうなるでしょう。妻がフルタイムで働いているなら「妻の収入で生活費は賄える」と考えた夫が生活費を入れない場合、悪意の遺棄にあたるのでしょうか。

結論から申し上げると、共働きでも生活費を入れなければ扶助義務違反にあたります。たとえ妻の収入で生活費を賄えたとしても、妻だけが生活費を負担している以上、夫婦で協力して生活を維持している状態とは言えないため、収入額に応じて生活費を入れてもらうべきでしょう。

悪意の遺棄とは

法律上、夫婦の暮らしを意図的に破綻させようとすることを「悪意の遺棄」といいます。冒頭で、夫婦は互いに「扶助義務」があると説明しました。扶助義務とはお互いが同レベルの生活ができるようお金を出し合って助け合うことをいいます。ほかにも、夫婦が一緒に住む「同居義務」、夫婦が互いに協力し合って生活する「協力義務」があります。

これらの義務に違反する行為があったことに加え、相手を困らせようとして婚姻生活の破綻を意図したり、夫婦関係の破綻を予想しながら実行に移した場合に「悪意の遺棄」に該当します。

反対に「生活費を入れたくても収入が低くて入れられない」「夫婦関係を破綻させる意図はない」といった場合は、悪意の遺棄にはあたりません。そして先述した夫婦の義務を怠っていることを自覚しているにもかかわらず、改善せずそのまま放置した状態を「遺棄」といいます。

悪意の遺棄に該当する行為

次のような行為が悪意の遺棄にあたるのか、具体例は次のとおりです。

・収入があるのに必要な生活費を渡さない
・生活費のほとんどをギャンブルや趣味に使い込む
・生活費を渡す約束で別居したのに渡さない

などが該当します。

「必要な生活費を渡さない」とは、少額でも渡していれば大丈夫ということではありません。例えば5人家族で生活費を月3万円しか渡さないなど、極端な金銭感覚(悪くいえば、重度のケチ)の場合も、夫婦関係に亀裂が入る一因になり悪意の遺棄にあたる可能性があります。

生活費を入れない夫と離婚する際に知っておくべきこと

生活費を入れない夫と離婚を検討している場合、離婚に向けて知っておくべきことをご紹介します。

証拠を用意しておく

離婚の慰謝料は離婚原因をつくった側が支払うお金です。悪意の遺棄をした配偶者に対して慰謝料を請求できるので、実際にそれがあったことがわかる証拠を用意しましょう。なお、悪意の遺棄の証拠になるものは下記のとおりです。

同居義務違反

・別居したことがわかる住民票
・別居の経緯を記したメモ
・相手が同居を拒否したことがわかる録音やメール
・相手が一方的に家を出たことがわかる手紙やメール

扶養義務違反

・源泉徴収票
・給与明細
・通帳
・家計簿
・浪費したことがわかる領収書やカードの明細書
・浪費しているところがわかる画像や動画

協力義務違反

・家事・育児を放棄していることがわかる画像や動画
・相手の生活状況を記録した日記やメモ

婚姻費用も請求できる

すでに別居中で離婚に向けて準備を進めていたとしても、離婚が成立するまでは婚姻期間中に受け取れなかった婚姻費用を請求できます。十分な生活費を受け取れなくなった時期と、婚姻費用を請求していることがわかるようなメール等があれば証拠として用意しておきましょう。

離婚条件を公正証書で残しておく

離婚にあたって、夫婦で話し合って決めたことを書面にしてまとめておきましょう。これは離婚協議書といい、慰謝料や養育費、財産分与や子どもの面会交流など、離婚の際に取り決めたことを書面に残しておくものです。離婚で話し合ったことを書面にする義務はありませんが、離婚後のトラブルを防ぐためにも必ず離婚協議書を作成しましょう。

そして、離婚協議書は公証役場に持ち込み、公正証書として残しておくことをおすすめします。離婚協議書として残すだけでは私的な書類にすぎず、法的な効力がないためです。公正証書は、裁判の判決と同等の効果があり、万が一養育費や分割払いで決めた慰謝料などの支払いが滞ったときに、強制執行の手続きが可能になります。

弁護士に交渉を委任する

最低限の生活費を入れない夫は、モラハラかつ自己中心的な性格である傾向があります。そうした夫の多くは、こちらの意見を真っ向から否定し、話し合いをしても自分に都合のいいような提案をするため、建設的な話し合いが難しいのが現実です。

そこで、生活費を入れてくれない夫との話し合いは弁護士に任せるべきでしょう。離婚問題に詳しい弁護士は慰謝料の交渉も得意としており、法的な根拠をもとに主張・立証していくので悪意の遺棄があった夫とも冷静に話し合いができます。

生活費を払ってくれない場合は婚姻費用分担請求をする

衣食住にかかるお金や教育費、医療費など婚姻生活を維持するために必要な一切の生活費のことを婚姻費用といいます。別居中ないし離婚協議中であっても離婚するまでは婚姻費用分担請求ができます。

婚姻費用の金額は、裁判所が公開している婚姻費用算定表を参考に両者の年収、子どもの養育費、小さい子どもがいる場合は生活費などを考慮して算定されます。

夫が婚姻費用を負担していない場合は婚姻費用分担の調停または裁判により請求できます。調停になると解決まで1か月から数か月間かかるので、その間の生活費については家庭裁判所に申し立てて結論が出るまで生活費をかりに支払ってもらうための手続きをしましょう。

まとめ

生活費を入れない夫は結婚生活を顧みず、生活費よりも自分のためにお金を使いたい人が多く見られます。そのような人と対等な話し合いができず、解決が遠のく可能性もあります。

そこで法的な根拠と専門知識で説明できる弁護士が交渉を進めた方が進展しやすくなります。生活費を入れてもらえず、離婚を考えている方は弁護士にご相談ください。

scroll top
目次
閉じる