婚姻費用を払わない相手への対処法と請求する手順

別居していても夫婦には扶養義務はあるため、配偶者に婚姻費用を請求することができます。婚姻費用とは夫婦が生活するための費用のことを指し、別居期間中の生活費も婚姻費用として相手に請求することができます。

しかし、配偶者が婚姻費用を払ってくれないことも少なくありません。婚姻費用を払わない配偶者に対して、どのように対処すべきなのでしょうか?ここでは、婚姻費用を払わない相手への対処法や請求するための手順について解説していきます。

婚姻費用を払わない相手への請求方法

夫婦には同居・協力・扶助する義務があることが法律によって定められています。(民法第752条)そのため、別居をしていたとしても互いに協力して扶助する義務があり、婚姻費用を分担しなければなりません。婚姻費用を払わない相手に請求する場合、次の2種類の方法で請求を行います。

夫婦での話し合い

まずは、夫婦間の話し合いで婚姻費用を請求し、相手が支払うことに合意すれば、婚姻費用を受け取ることができます。この合意した内容は、書面に作成しておくと「言った・言わない」のトラブルを避けることができます。しかし、婚姻費用を払わない相手と協議しても、支払いに合意してもらうことは難しいと考えられます。

婚姻費用の分担請求調停

協議で婚姻費用の支払いに合意が得られなかった場合には、「婚姻費用の分担請求調停」を申し立てます。婚姻費用の分担請求調停とは、裁判手続きの一種です。家庭裁判所の調停員会が間に入り、両者の意見を聞いた上で意見をまとめます。

ここで双方が合意に至れば調停成立ですが、合意されない場合は審判手続きに移ります。審判手続きでは裁判官によって判断されることになり、審判結果に納得できなければ更に不服申し立てを行うことになります。不服申し立てを行えば、家庭裁判所ではなく高等裁判所が判断します。

取り決めた婚姻費用を払わない場合

調停や審判で婚姻費用の支払いに関する取り決めを行ったにも関わらず、相手が婚姻費用を払ってくれないようなケースもあるでしょう。取り決めた婚姻費用を払わない場合、次の方法で対処することができます。

裁判所の履行勧告、履行命令

取り決めた婚姻費用を相手が払わない場合、裁判所に履行勧告や履行命令を出してもらうことができます。履行勧告とは、取り決め通りに支払うように裁判所から注意をしてもらう手続きです。ご自身で促すよりも裁判所からの注意を受けた方が心理的にもプレッシャーに感じ、支払いをしてもらえる可能性が高くなります。

また、履行命令は、相当期間を定めて支払うように裁判所から命令を出す手続きです。取り決め通りに支払わなければ、過料に処す可能性があることを裁判所が相手に伝えます。これらの手続きに法的拘束力はなく、あくまでも支払いを促すための注意喚起です。ただし、履行命令の場合は、相手が裁判所の命令に従わなければ10万円以下の過料に処される可能性があります。

強制執行による差し押さえ

調停や審判によって取り決められた期日内に婚姻費用が支払われない場合、強制執行による差し押さえを行うことができます。相手の財産を差し押さえ、換価して慰謝料として受け取ることができる方法です。預金や現金以外にも、家や車、絵画、有価証券、給与など財産を差し押さえることが可能です。

婚姻費用の請求について

婚姻費用を払わない相手に請求するために、請求について知っておくべきことがあります。相手に請求を行う前に、次のことを確認しましょう。

婚姻費用はいつからいつまで請求できる?

婚姻費用の請求は、「請求した日」から「離婚成立もしくは別居解消日」まで請求することができます。別居を開始してから何カ月も婚姻費用を請求せずにいるようなケースも少なくありません。

この場合、請求していなかった期間を遡って請求することはできますが、実務上は「請求した日(調停の申立日)」とされるため認められないことが多いです。そのため、婚姻費用は別居開始から速やかに請求すべきだと言えます。

婚姻費用の金額はどうやって決める?

婚姻費用の金額は、裁判所が公表している「婚姻費用算定表」を基準にして金額を定めます。この表には、「夫婦のみの場合」と「子どもがいる場合」に分かれています。子どもがいる場合は、子どもの人数や年齢に応じて異なります。

また、婚姻費用は収入が多い方の配偶者が少ない方の配偶者に支払うものです。そのため、支払う側の年収や受け取る側の年収によって表の見方が変わります。婚姻費用の相場は子どもの人数や夫婦の年収によって異なりますが、裁判所の調査の結果「月4~15万円以下」であることが分かっています。最も多い金額が10~15万円で、続いて4~6万円が多くなっています。

参考元:婚姻関係事件のうち認容・調停の成立内容が「婚姻継続」で婚姻費用・生活費支払の取決め有りの件数|裁判所

共働きの場合は婚姻費用をもらえない?

近年では共働きの夫婦が増加しています。共働きで互いに収入があれば婚姻費用は必要ないという主張を相手が行い、婚姻費用の支払いを拒否するようなこともあるでしょう。しかし、共働きでも場合によっては婚姻費用を支払ってもらうことができます。

なぜならば、共働きであっても一方の収入が同等であるとは限らないからです。一方の収入が主に家計を支えていたという場合であれば、収入が少ない側はこれまでの生活を維持することが難しくなります。夫婦には互いの生活レベルを同じくらいに維持させる義務があるため、収入が配偶者よりも少ない場合は共働きでも婚姻費用を請求することができます。

配偶者が婚姻費用を払わない場合は弁護士に相談

配偶者が婚姻費用を払わない場合は、ご自身でどうにかしようとする前に弁護士に相談してみてください。弁護士に依頼することには多くのメリットがあります。

相手が話し合いに応じる可能性が高まる

弁護士が介入することで話し合いに応じてもらえる可能性が高まります。なぜならば、弁護士が介入するということは法的措置を行う一歩前だと相手に理解してもらえるからです。

また、調停や審判で取り決めを行った後にも関わらず払わない相手であったとしても、弁護士が介入することで強制執行による財産差し押さえの可能性などを相手に説明することができます。財産の差押えは避けたいと考えることが一般的なので、調停や審判で決まった婚姻費用を払ってもらえる可能性は高くなるでしょう。

調停や審判で有利になる

調停や審判で解決することもできますが、裁判所では特別な事情などは考慮してもらうことができません。そのため、婚姻費用算定表に基づいた金額が適用されるでしょう。協議であれば、さまざまな事情を考慮した上で、調停や審判よりも高額な婚姻費用を支払ってもらえるように交渉することができます。

弁護士に依頼すれば交渉を全て任せることができ、専門知識を基に相手に交渉を行います。もし調停や審判になったとしても、弁護士が的確に特別な事情を主張することで、ご自身で行うよりも有利に進められる可能性が高まります。

まとめ

婚姻費用を相手が払わない場合でも、相手よりも収入が低いのであれば協議や調停で支払いを請求することができます。もし相手が調停や審判通りに支払いを行わない場合であっても、相手の財産を差し押さえることが可能です。

いずれにしても、支払わない相手をご自身で説得することが難しい場合には、弁護士に相談してみてください。弁護士が介入することでスムーズに話し合いが進みやすくなるでしょう。