離婚の際の慰謝料には離婚慰謝料と不貞慰謝料があることをご存じでしょうか。一見すると、同じもののように思いますが、平成31年2月19日の最高裁判決ではこの二つを区別して判断しました。(参考解説:「不倫」の慰謝料と「離婚」の慰謝料は別もの|日経ビジネス)
すなわち、この事件では、不貞慰謝料は認められても、離婚慰謝料は必ずしも認められるわけではなく、離婚慰謝料が認められるためには特段の事情が必要であると判示しました。では、「離婚慰謝料」と「不貞慰謝料」の違いを見てみましょう。
離婚慰謝料と不貞慰謝料の違い
離婚慰謝料とは
離婚慰謝料とは、配偶者の行動が原因で離婚することとなった場合に発生する慰謝料です。ここでいう配偶者の行動とは、不貞行為やDV、モラハラなどの行為を言います。不貞行為が原因で離婚する際に発生する離婚慰謝料は、あくまで離婚原因を作った配偶者に対する慰謝料請求ですので、不倫相手は離婚慰謝料を負担する義務は原則ありません。
不貞慰謝料とは
不貞慰謝料とは、配偶者以外の第三者と不貞行為を行った場合に発生する慰謝料です。不貞慰謝料はあくまで不貞行為に対する慰謝料請求ですので、離婚をしない場合であっても請求できます。離婚する場合は、離婚慰謝料に含めて請求することもありますが、厳密には別物の慰謝料です。また、不貞行為に対する慰謝料は、不貞行為をした配偶者と不倫相手両方が慰謝料の支払い義務を負います。
不貞行為で離婚する場合の慰謝料相場
一般的に不貞行為で離婚する場合の慰謝料の相場は100万円~300万円程度です。離婚における慰謝料は、配偶者等から受けた精神的苦痛に対する金銭的補償です。精神的苦痛は一般的には外見からは判断できないため、慰謝料の額を具体的に決定することは非常に専門的で難しいです。不貞行為を原因とする離婚に限らずとも、慰謝料の額を算定するにあたっては様々な要素を個別事情に応じて総合的に考慮する必要があります。
慰謝料の算定要素
離婚慰謝料の算定要素
さきほど述べた通り、離婚慰謝料の算定要素としては様々な要素を総合的に考慮する必要がありますが、たとえば以下のものが挙げられます。
・相手の行為の有責性
・婚姻期間の長さ
・子どもの有無
・配偶者の資力(年収・資産・社会的地位等)
・それまでの夫婦関係
基本的には複数の要素が絡んだ離婚原因になるほど慰謝料は高額になる傾向があります。例えば、不倫をしていた旦那にDVも受けていた、生活費を家庭に全く入れず不倫していた、などのケースです。離婚時には、慰謝料以外にも財産分与や養育費などのお金をどうするか取り決める必要がありますので、ご自身が損をしないためにも弁護士に相談することをおすすめします。
不貞慰謝料の算定要素
不貞慰謝料は離婚慰謝料と共通する部分もあるため、算定要素としても基本的には離婚慰謝料と類似しております。様々な要素を総合的に考慮する必要があることも同様ですが、たとえば以下のものが挙げられます。
不貞行為の態様・度合い
不貞行為があった期間の長短によって精神的苦痛の程度は異なります。また、不貞行為の期間が短かったとしても、不貞行為を行っていた第三者の人数や不貞行為の頻度などが多いとその分精神的苦痛は大きいとされ、慰謝料の額は多くなります。
資産・負債
離婚慰謝料でも考慮される要素ではありますが、不貞行為を行った配偶者の年収、資産額なども考慮されます。実際には相手が支払えないほどの慰謝料を請求しても回収ができないため、慰謝料の金額が資産額などからして高すぎないか、逆に低すぎないかという点も考慮し請求することになります。
離婚慰謝料と不貞慰謝料の時効
離婚慰謝料も不貞慰謝料も法的にみるといずれも民法第709条に基づく損害賠償請求です。第709条に基づく損害賠償請求の時効は以下の通り、民法第724条に規定があります。
第724条(不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
・被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。
・不法行為の時から二十年間行使しないとき。
この規定からすると、離婚慰謝料も不貞慰謝料も時効の成立時点は同じように思えますが、厳密には以下の通り異なります。
離婚慰謝料の時効
離婚慰謝料は、配偶者の行動が原因で離婚することとなった場合に請求することができる金銭的請求です。離婚慰謝料においては、離婚に至るまでの一連の行為が不法行為となります。したがって、離婚慰謝料における「損害」とは離婚そのものと言えるので、離婚が成立した時から3年で時効となります。
不貞慰謝料の時効
他方、不貞慰謝料とは、配偶者以外の第三者と不貞行為を行った場合に請求することができる金銭的請求です。不貞慰謝料においては、配偶者の不貞行為が不法行為となります。したがって、不貞慰謝料における「損害」とは、不貞行為がなされた事実であると言えるので、時効は「損害及び加害者」を知った時から3年間、あるいは20年以上前の不貞行為となります。
なお、配偶者に対して不貞慰謝料を請求する場合は民法第159条が適用されるため、たとえ不貞行為を知った時からすでに3年が経過していても、婚姻の解消の時から6ヵ月を経過するまでは時効は完成しません。
第159条(夫婦間の権利の時効の完成猶予)
夫婦の一方が他の一方に対して有する権利については、婚姻の解消の時から6箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
時効の起算点の違いに注意
離婚慰謝料と不貞慰謝料の大きな違いは時効の起算点でした。この記事の冒頭で紹介した平成31年2月19日の最高裁判例において、原告が不貞慰謝料請求をせずに離婚慰謝料を請求したのも「時効」が関係しています。この事件では、慰謝料請求をした時点で不貞慰謝料の請求権は時効によって消滅してしまっており、対して離婚慰謝料の請求権の時効は成立していなかったため、離婚慰謝料を請求しました。
この事件では、原告本人が時効の成立を知らなかったために、結果として原告は離婚慰謝料も不貞慰謝料も請求をすることができませんでした。このように、例え配偶者の不貞行為が事実で慰謝料の支払い義務が発生する事案であっても、時効を迎えてしまうと請求は認められないため、慰謝料請求を考えている場合は少しでも早く行動に移すことが重要です。
まとめ
離婚や不貞慰謝料の算定要素は、様々な要素を総合的に考慮する必要がありますので、一般人では判断することが非常に難しいです。慰謝料を請求するためには、その要件や請求額、手続きなどの専門的な知識が必要となります。加えて、請求者にとってより有利な条件を提示するために有効な証拠集めも必要となります。そのため、離婚慰謝料や不貞慰謝料の請求を検討されている方は、自分一人で悩みを抱え込んでしまわずに、早めに弁護士に相談し、プロからアドバイスをもらうことがおすすめです。