離婚はしないが、不貞慰謝料を請求したい方へ

配偶者の浮気や不倫が発覚したけれど、子どもへの影響や今後の生活を考えると離婚はしたくないと思う方もいらっしゃると思います。

しかし、このまま見過ごして結婚生活を続けていくのは難しいものです。

そういった場合に不貞慰謝料を請求して、モヤモヤした気持ちを払拭させてはいかがでしょうか。

この記事では、離婚はしないけど、不貞慰謝料を請求したい場合についてご説明します。

離婚はしないけど、不貞慰謝料請求はできる?

夫婦には、互いに貞操を守る義務があります。

婚姻中に配偶者以外の者と性交渉を持つことは認められていません。配偶者以外の者と自由な意思で肉体関係を結ぶことを法律上「不貞行為」といいます(最判S48.11.15判決)。

不貞慰謝料とは、一方の配偶者が不貞行為をした配偶者やその不貞相手に対して不貞行為により受けた精神的苦痛を、お金で賠償してもらうというものです。

ここでは、離婚しない場合でも不貞慰謝料を請求できるかどうかをご説明します。

不貞慰謝料は配偶者と不貞相手どちらにも請求できる

不貞行為は、一人ではできません。

必ず不貞相手が存在するため、「共同不法行為責任」を追及できます。

よって、離婚しない場合も配偶者と不貞相手どちらへも請求できます。

不貞慰謝料の請求が認められる要件

しかし、不貞行為があったからといって、必ず慰謝料がもらえるわけではありません。

不貞慰謝料請求が認められるには、次の4つの要件を満たさなければなりません。

  • 不法行為の事実があった
  • 故意過失が認められる
  • 不貞行為により精神的損害を受けた
  • 不貞慰謝料請求の請求期間内である

以下で説明します。

不法行為の事実

不貞行為とは、具体的には性行為または性交類似行為を指します。

この不貞行為が実際にあったということを証拠により証明できなければなりません。

故意過失が認められる

故意過失が認められるには、不貞相手が交際相手を既婚者であると知っていた、または、知らなかったとしても注意すれば知ることができた、知るべきであったといえなければなりません。

不貞行為により精神的損害を受けた

不貞行為により「夫婦が平穏・円満な共同生活を送る」という権利が侵害され、精神的損害を受けたと認められなければなりません。

よって、不貞行為以前から別居していたり、同居はしているけど会話もなく家庭内別居の状態であったりする場合は認められません

不貞慰謝料請求の請求期間内である

不貞慰謝料請求には時効があります。

不貞行為の事実及び不貞相手を知った時から3年が経過すると慰謝料の請求ができない(民法724条第1号)ので注意が必要です。

求償権に注意

不貞相手へのみ不貞慰謝料を請求する場合は、求償権に注意が必要です。

求償権とは、連帯債務者が自身の負担部分を超えて支払いをしたときに、もう一方の連帯債務者に超えた分を請求できる権利のことです。

不貞相手へのみ慰謝料を支払ってもらう場合は、のちに不貞相手が求償分を配偶者へ請求しないよう求償権を放棄してもらう交渉をしましょう。

離婚しない場合の不貞慰謝料の相場はいくら?

不貞慰謝料は、個別の事情や状況を考慮して金額を算出するため、明確な基準がありません。

そのため、話し合いで合意できるようであれば、いくらでも構わないのです。

とはいえ、請求される側が必ずしも言い値で支払ってくれるわけではありません。

ここでは、弁護士が介入した場合の不貞慰謝料の相場や増額のポイントをご説明します。

不貞慰謝料の相場

弁護士が交渉に介入した場合は、過去の判例などを参考にして金額を提示します。

裁判上、離婚しない場合の不貞慰謝料の相場は、50~100万円です。

配偶者の不貞行為が原因で離婚する場合よりも低額となります。

なぜなら、不貞行為によって完全に婚姻関係が破綻したと考えられにくいからです。

増額のポイント

不貞慰謝料の増額のポイントは、次のような事情があるかどうかです。

  • 婚姻関係が長い
  • 夫婦間に未成熟の子がいる
  • 不貞行為の期間が長い(おおよそ1年以上、婚姻期間との比較も考慮される)
  • 不貞行為の頻度が多い(おおよそ十数回以上、不貞期間に対する頻度も考慮される)
  • 不貞関係発覚後も不貞関係が継続している
  • 不貞関係解消を要請された後も不貞関係が継続している
  • 不貞関係の解消を約束したにもかかわらず不貞関係が継続している
  • 不貞行為により請求側が被る精神的苦痛が重大(心身の不調、不貞相手の妊娠の有無など)
  • 不貞相手が配偶者から経済的利益を受けている
  • 不貞相手の行動が悪質(虚偽の主張をする、離婚するよう積極的に促していたなど) など

離婚しない場合の不貞慰謝料請求の判例

次の登場人物を例に裁判例をご紹介します。

妻が夫の不貞相手に不貞慰謝料請求し、相場以上の慰謝料が認容されたケース

Case1

相場より高額となった理由は、愛子の夫が、不二夫に対して愛子との不貞を原因とする慰謝料を請求し、不二夫が既に250万円を支払って示談が成立している点が大きいでしょう。

Case2

相場より高額となった理由の一つに、夫婦の不和が未成熟子に深刻な影響を与えているという事情が挙げられます。

こちらのケースでは、不貞行為の発覚後、長男の元気がなくなり不登校となり、さらにメンタルクリニックへ通院するようになりました。また、長女も月2回程度セラピーを受けるなど夫婦の不和が子どもたちへ大きく影響している点が考慮されています。

妻が夫の不貞相手に不貞慰謝料請求し、相場内の慰謝料が認容されたケース

Case3

こちらのケースは、不貞期間の短さや夫婦関係が破綻していないといった事情があり、比較的解決金が低額になるような事案です。

しかし、愛子が、不二子らが離婚しないことに逆上し、夫婦の子の名前や通っている保育園を聞き出そうとしたり、不二子の勤務先へ連絡する旨述べて高額な慰謝料の支払いを要求したり、自殺を示唆して損害賠償請求を行わないよう念書の作成を強要しようとした事情があり、これらの事情は不二子の婚姻生活の継続に不安を与えるものであり、ストーカー被害として警察への相談を余儀なくされているなど軽視できないとして考慮されています。

Case4

こちらのケースは、現在も夫婦が同居しており、関係の維持回復に向けて動いているため、婚姻関係が破綻には至っていないといった事情が考慮されています。

夫が妻の不貞相手に不貞慰謝料請求し、相場以上の慰謝料が認容されたケース

Case5

こちらのケースは、愛之助が不二夫に対して、不二子との関係を一切絶つことを約束したにもかかわらず、不貞関係を継続していたという事情が考慮されて、相場よりも高額な慰謝料が認められました。

Case6

こちらのケースは、不二夫と不二子との間に3人の子がおり、さらに不二子と愛之助の子2人を不二夫の子として養育しているという事情があり、不二夫が、愛之助の子を自分の子として養育していくことについて深い葛藤を抱えながら生活していることがうかがえ、婚姻関係に及ぼした影響は強いと判断されました。

夫が妻の不貞相手に不貞慰謝料請求し、相場内の慰謝料が認容されたケース

Case7

こちらのケースは、不貞行為の回数が1回であり、夫婦関係が破綻していないといった事情から比較的解決金が低額になるような事案です。

しかし、不二夫が代理人を通じて愛之助に慰謝料を請求した際、愛之助は代理人に対して身に覚えがない、詐欺ではないかと不貞を否定する態度を取っており、これが増額の事情となりました。

Case8

こちらのケースは、愛之助が不二子から婚姻関係は既に破綻していて離婚協議中であると聞いていたとして、慰謝料の支払いを否定しましたが、愛之助が不二子の発言を軽信したというほかなく、愛之助には過失があると判断されました。

離婚しないで慰謝料請求する方法は?

不貞慰謝料は次の順序で請求していきます。

証拠を集める

不貞の慰謝料請求をするには、証拠集めが重要です。

証拠は、次のように客観的に不貞があった事実を証明できるものでなければなりません。

【不貞の証拠の例】

  • 不貞相手とふたりでホテルに出入りしている写真や動画
  • 不貞相手の自宅に宿泊する様子を撮影した写真や動画
  • 不貞相手との不貞行為を記録した写真や動画
  • 性行為があったと推認される不貞相手とのメールやLINEなどのメッセージのやりとり など

書面で請求する

不貞慰謝料を請求する際は、必ず書面で行いましょう。

書面でやりとりすることで、感情的になったり、言った・言わないの争いになったりを防げます。

また、話し合いで解決できた場合は、示談書を取り交わしましょう。

支払い方法が分割となる場合は、公正証書を作成すると良いです。

調停・裁判

話し合いで解決できない場合は、調停や訴訟を申し立てます。

調停は、調停委員が間に入って、話し合いを行う場です。

訴訟では、双方の主張や証拠をもとに裁判官が不貞の事実や慰謝料の金額について客観的に判断します。

離婚せずに不貞慰謝料のみを請求する場合は、訴訟を提起することが多いです。

訴訟は、調停に比べて時間と費用を要しますが、相手方が不貞の事実や慰謝料の支払いを否定した場合でも確実に決着がつくからです。

まとめ

子どもへの影響や今後の生活を考えて離婚はしたくないけど、このまま見て見ぬ振りをして過ごすことは難しいと思う方は多いのではないでしょうか。

離婚しなくても不貞慰謝料は請求できます。

弁護士に依頼するメリットは次の5つです。

  • 相手方が慰謝料を支払いに応じない場合に適切な慰謝料額での解決が期待できる
  • 示談交渉で相手方と直接会わずに解決できる
  • 相手方にプレッシャーをかけることができる
  • 早期解決が期待できる
  • 解決後のトラブルを未然に防ぐことができる

納得のいく解決のためにも、まずは弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。